長期投資の勝率とリスク




過去の実データにおける、アメリカ株長期投資の勝率は100%です。

これは過去100年以上に渡って、アメリカ株において実現している客観的な事実です。

特定の個別株の話をしているわけではありません。S&P500というアメリカの株価指標に代表される、市場平均がずっとそのように推移してきたのです。

もしかしたら、懸命な読者様から、2017年にダウ平均が高値を更新しているのだから、2017年まで株をずっと持ってれば勝率100%になるのは当たり前だ、というツッコミが入るかもしれません。

しかし、それも違います。なにしろ、S&P 500という指標が作られて以来、どの年に投資をはじめていたとしても、20年以上保持していれば確実に儲かっていたのですから。

これはS&P500のいままでの実データからみた、n年の長期保有をしたときにどれくらいの確率で利回りがマイナスになったかを表すグラフです。

縦軸が損をした確率、横軸が保有年数となります。

例えば、n=5で5年間の保有であれば、1926-1931年、1927-1932年、1928-1932年・・・・というようにそれぞれの利回りが実際いくらになったのかと算出し、マイナスになった確率がどれくらいかをグラフ化しています。

グラフを見ると分かる通り、単年の投資では1/3程度の確率(32%)でマイナスとなっていますが、保有期間が18年を超えた地点では0%になっています。

これはつまり、これまで過去にS&P500に18年間以上投資していた人で、どの期間に取引をした人であっても損をした人はいないということです。(ただし、これは年単位で切り取ったデータなので、1年のうちどこで切り取ったデータかによってバラツキは発生しますが、海外のWebページからデータを取ってきており恣意的に作成したデータではありません。)

それでは、ここ100年くらいのアメリカ株投資家において、17年間運用益がマイナスとなり続けた一番不運だった人はどのタイミングで投資した人だったのでしょうか?

大きかった下落幅では、1930年からの世界恐慌、また最近の例では2008年のリーマンショックが記憶にあたらしいですが、意外にもこれらの例では下落幅も大きい一方で回復速度もはやく、長期投資においてはそれほど大きな問題になっていません。

長期投資においてなかなか結果がプラスにならずにもっとも不運だったのは、1965年-1981年に投資していた人になります。1973年の石油危機などを経て、長期に渡ってアメリカ市場が低迷していた中、世界経済で順調に成長を遂げていたのは他でもない日本でした。

つまり、最悪のタイミングで1965年に仮に投資をはじめていたとしても、ポートフォリオの一部を日本株にしていたなら、もっと早いタイミングで資産はプラスに転じていたことでしょう。

ポートフォリオの全てを一つの国に預けるのではなく、適度に分散させておく姿勢は過去を学ぶ中からも正当化されます。

さて、ここからはもう少し統計的な視点からS&P500を眺めてみましょう。

過去89年にわたるS&P500の1年毎の利回りをヒストグラムにまとめたものです。

ご覧の通り、1年ごとの利回りというのは正規分布に近いグラフになります。

では、S&P500の利回りというのは正規分布に近似できる仮定のもと、長期保有したときのリスクの程度を検証していきます。

こちらはS&P500をn年保有したときの平均利回りと、標準偏差をグラフにしたものです。

縦軸が平均利回り、横軸が保有年数です。

とある分布を正規分布で近似することができるとき、平均から1標準偏差(σ)以内におよそ68%程度の確率で収まることが知られています。

例えば、20年時点での平均利回りは380%であり、標準偏差は284.7%なので、20年時点での利回りは95.3%~664.7%の範囲に収まる確率が高いといえます。

さて、この1σ内の推移が、30年間どのようになるのかをまとめたのが次のグラフです。

横軸は年数、縦軸は利回りです。

大体こんな感じのグラフになります。下側のグラフよりも運用成績がよくなる確率は68%+16%で84%ほどなので、30年間運用を続けていれば、大体安定して少なくとも400%の利回りにはなる、運が良ければ1200%ほど、というところでしょうか。

よく、長期投資はリスクを下げるという話がありますが、あれはリスクという言葉の定義をどう捉えるかによってその真偽が異なります。

長期投資をすれば、運用成績がプラスになる確率はどんどんあがっていきますが、グラフをみればわかる通り、結果のバラツキ幅も大きくなります。リスクをバラツキと捉えるのであれば、むしろ長期投資はリスクを上げるということもできるでしょう。

例えば、上記のグラフは±1σ(68%)でつくっていますが、±2σ(95%)のグラフにすると取りうる利回りの範囲は大幅に広がり、長期投資においてもマイナスになることもありえる、というようなグラフになります。(冒頭で述べた通り、現実にそのような事象は起こっていませんが)

 

さて、これまで過去の実データを使って長期投資の優越性について確認してきました。

しかし、ここで生まれる問いは、

確かにこれまでの100年間は長期投資をしてきた者が勝ち組に見える。だがこれから来る100年間はいままでの100年間と同じ法則で株価は推移していくのだろうか?

ということだと思います。ここからはデータに基づく話ではなく、僕個人の予想となりますが、少なくとも当面の間、答えはYESです。

過去にみられたように、株価が一定の速度で成長してきたのは偶然ではなく、それなりの理由があります。ピケティ教授も言っていた通り、あらゆる国で、戦争が起こった直後を除いて、資本収益率は経済成長率を上回ってきました。これは資本主義というシステムの構造的な要因ということができます。

つまり、現在のアメリカ主導の資本主義経済が続き、新しい経済構造が生まれるまでは同じことが起こり続けるであろうということです。

株への投資は、資本主義というシステム自体への投資です。細かい株の値動きに着目すれば、勝ったり負けたりすることはありえますが、長期では安定した収益をもたらしてくれるでしょう。資本主義が終わるまでの当面の間は、株への投資が最適解となり続けると予想しています。

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30代元システムエンジニア。 日本では経営学、アメリカで経済学や統計学などのビジネスを専攻。 趣味は株式投資からゲーム、音楽まで幅広く。 リンクフリーです、ご自由にどうぞ。